
CPUグリス(熱伝導グリス)は、CPUとクーラーの間にわずかに残る空気層を埋め、熱を効率よくヒートシンクへ伝える役割を担う。金属同士は一見密着しているように見えても、実際には微細な凹凸が存在し、その隙間に空気が入り込む。
空気は熱を通しにくいため、グリスによって空気層を排除することで冷却性能が大きく高まる。グリスの性能や施工状態は、システム全体の安定性や寿命にも直結する。
一方で、「すっぽん」という言葉が近年、パソコン自作界隈で頻繁に使われるようになってきた。
「すっぽん」とは
「すっぽん」とは、本来はCPUを取り外す前にクーラーを先に外すわけだが、クーラーを取り外そうとした際に、CPUまでソケットから引き抜かれてしまう現象を指している。
通常、CPUクーラーはマザーボード上のCPUに取り付けられ、サーマルグリスを介して熱を効率よく伝える構造になっている。
このグリスが強力に固着していると、CPUとクーラーが密着しすぎてしまい、クーラーを無理に引き抜いた際に、クーラーと同時にCPUごと一緒に抜けてしまうことがある。このとき、CPUのピンに無理な力がかかり、ピンが曲がったり折れたりして、CPUを破損させてしまう。
この現象と「すっぽん」という言葉が一部で強調されすぎ、独り歩きした結果、グリスの量を極端に控える人が増えた。とくに初心者層の間では、「グリスを塗りすぎるとCPUが抜ける」といった誤った解釈が広まっている。
実際には、すっぽんの主因は塗布量よりも、クーラーの取り外し手順にある。回転させて剥がす、温めて粘着を緩めるなどの外し方を知っていれば、CPUまで同時に抜かれる事態はほとんど避けられる。
グリスの塗布量を過度に減らすと、本来の冷却機能が発揮されず、発熱によってCPUのクロックが下がったり、異常停止が発生したりする危険性がある。「すっぽん」を過度に恐れ、本来の目的である熱伝導を犠牲にするのでは本末が転倒している。
はみ出して垂れるほど過剰に塗るのは避けるべきだが、必要量に満たないのはそれ以上に致命的である。
グリスが少なすぎると何が起こるのか?
CPUグリスが十分に塗布されていないと、最初に表れるのが冷却性能の著しい低下である。グリスは熱伝導を補助するために塗るものであり、グリスそのものが冷却するわけではない。
にもかかわらず、塗布量が極端に少ないと、ヒートスプレッダーとクーラー底面の間に空気が残る。この空気層が熱伝導の障害となり、CPU温度が高くなりやすい状態を招く。
冷却効率を高めるには「グリスは薄く塗るのがいい」とよく言われるが、肝心のクーラーとCPUがきちんと接着していなければ、どれだけ薄くても効果はない。接触不良を招くほど薄く塗るくらいなら、多めに塗布したほうがよほどマシである。
発熱が激しいCPUでは、グリスが少ない状態で高負荷をかけ続けると、クロックダウンだけでなく、強制的なシャットダウンに至ることもある。ゲームプレイ中のクラッシュ、さらにはシステムエラーの誘発にもつながる。内部の温度が高止まりすることで、マザーボード周辺の電源回路やVRMの寿命も縮める要因ともなる。
冷却不足はユーザーの目には見えにくい形で進行する。PCが普段通りに動作しているように見えても、グリス量が足りなければ常に温度が高めに推移し、ファンの回転数が上昇して騒音が増す、内部パーツの熱劣化が早まるなど、じわりじわりと悪影響が積み重なる。
グリスは多すぎると多少のロスにはなるが、少なすぎれば即座にリスクが現れる。温度センサーでのログ記録やベンチマークソフトも活用し、冷却性能が十分かを常に意識したいところだ。塗りすぎを恐れて塗らなすぎるのは、性能と安定性を両方損なう。
「すっぽん」の実態とリスクの現実
「すっぽん」とは、CPUクーラーを取り外す際にCPUまで一緒に抜けてしまう現象の俗称である。CPUクーラーの密着力とグリスの粘着性が合わさることで発生する。クーラーを無理に引き上げると、CPUピンが曲がる、ソケットが損傷するといった深刻な物理的被害を招くこともある。
グリス量よりも、クーラーの取り外し手順の誤りに注意したい。冷却後に固化したグリスの粘着力を軽視し、無理やり真上に引き抜く行為がリスクを高める。クーラーを少しづつ回転させて徐々に剥がすのがおすすめだ。
グリスの塗布量と「すっぽん」の因果関係についても誤解が多い。確かにグリスを厚く塗ると密着力は増すが、量は決定的な要因ではない。むしろグリスの温度の低さの方が「すっぽん」リスクになることが多い。つまり、グリス量の調整ではなく、冷却後の取り外し方法を覚えることが最大の対策となる。
これらは慎重に作業すればほとんど回避可能であり、正しい知識と手順でリスクは回避できる。グリスを控えるよりも、「すっぽん」が起きる構造と対処法を理解することが対策になる。
「米粒」?「豆粒」?「小豆」?
グリスを塗るときに 「米粒」や「小豆」の量が目安とされている。「米粒サイズ」と「小豆サイズ」では物理的な体積がまったく異なり、混同するとグリスの塗布量に大きな誤差が生じる。これは自作PC界隈でありがちな曖昧な表現によるトラブルの典型だ。
| 比較対象 | 重量(目安) |
|---|---|
| 米粒1粒 | 約0.15〜0.2g |
| 小豆1粒 | 約0.6〜0.8g |
米粒と小豆では3〜4倍の差がある。
少量すぎると以下のような状態になる。
- クーラー取り外し後、グリスが中央にしか残っていない
- 端部にまったく届いておらず、金属同士が直接触れていた痕がある
- ベンチマークやゲームでCPU温度がすぐに90度超え
こうした兆候があるときは、明らかな塗布不足だ。
「米粒サイズ」はあくまで初心者向けの大まかな目安にすぎない。確実に失敗を避けたいのであれば、実際にグリスを塗り、クーラーを装着して圧力をかけた後、はみ出しや塗布不足がないかを確認するのが確実だ。
“怖がりすぎ”が招く落とし穴と正しい知識の重要性
「すっぽん」を恐れるあまり、グリスをケチりすぎて、明らかに足りない量しか使わないユーザーが後を絶たず、それを後押しするように「塗りすぎ注意」ばかりがネット上にあふれている。
しかし、グリス不足からくる冷却性能の低下、サーマルスロットリングの発生やパフォーマンス低下の方が遥かに深刻だ。
塗布量に不安がある場合は、クーラー装着後に一度取り外して、グリスの広がり具合を目視で確認するとよい。電源を入れてCPUを温めてから確認するとさらに確実だ。
グリスが端まで均一に広がっていれば、塗布量としては十分であり、冷却にも問題はない。逆に、グリスが中央にしか届いていない場合は、明らかに量が不足している証拠である。
重要なのは、「怖がる」ことではなく「理解する」ことだ。グリスの特性と塗布パターン、そしてクーラー取り外し時の手順を把握すれば、すっぽん恐怖症からのグリス不足は避けられる。





