
2017年に登場したAMD RyzenのAM4ソケットは、7年以上が経過した現在も進化を続けている。2024年6月と11月には新たなCPUモデルが追加され、多くのユーザーが予想していた「終息」とは真逆の展開を見せている。
このしぶとさは、まさにCPU界のSDGsと言えるだろう。持続可能な開発目標(SDGs)が環境や社会の長期的な発展を目指すように、AM4も既存のハードウェア資産を最大限に活用しながら、継続して性能を上げ続けている。
DDR4メモリやマザーボードといった既存パーツを無駄にしたくないユーザーもいるだろう。CPUの換装だけで性能を底上げできるAM4は、まさに持続可能である。
もはや「延命措置」とは呼べない。AM4は今なお現役のプラットフォームとして十分に通用する。対するAM5は、DDR5メモリや新規マザーボードの導入といった初期コストがかさむ。一方で、AM4なら既存の環境を活かしつつ、最新世代に迫る性能を低額で手に入れられる。
この背景には、AM4ユーザーの根強い支持がある。コスパを重視する層にとって、全面的なプラットフォーム移行は現実的ではない。AMDはこのニーズを的確に捉え、AM4向けの新製品開発を継続している。
2024年新登場AM4 CPU徹底比較レビュー
2024年に追加されたAM4対応CPUは、既存ラインナップの隙間を埋める戦略的な製品群となっている。各モデルの特徴と最適な用途を詳しく見ていこう。
Ryzen 9 5900XT:ハイエンドマルチタスクの新基準
16コア32スレッドを誇る5900XTは、AM4プラットフォームの新たなフラグシップモデルである。基本クロック3.3GHz、最大クロック4.8GHzで動作し、TDPは105Wに設定されている。
16コア環境を構築できる点が最大の魅力で、同時に大量のタスクをこなしつつ、安価に環境を構築したいユーザーには魅力的だ。公式では水冷が推奨されているが、サイズの風魔3といった大型空冷クーラーなら十分に冷却できる実用性の高さも特徴である。


Ryzen 7 5800XT:コスパ重視の8コアモデル
8コア16スレッドの5800XTは、従来の5800Xと同等の性能を持ちながら、より低消費電力で動作する改良版といえる。基本クロック3.8GHz、最大クロック4.8GHzで、TDP105Wの設定だ。
3万円前後の価格設定により、8コア環境を手頃に構築できる。5800Xと大差ないベンチマーク結果を示しながらも、4年の技術進歩により効率性が向上している。5700X、5800X、5900Xからのユーザーには進歩を実感できないかもしれないが、新規構築には十分な性能を提供する。

Ryzen 5 5600XT:安定性を重視した6コアの定番
6コア12スレッドで動作する5600XTは、基本クロック3.7GHz、最大ブーストクロック4.7GHz、TDP65Wの仕様だ。1万5000円という低価格ながら、Ryzen 5 5600Xと基本的に同じ性能を持ちながら、さらに安定性を向上させたモデルである。
メインストリーム向けCPUとして、ゲーミングから一般用途まで幅広くカバーできる汎用性の高さが魅力。付属のWraith Stealthクーラーでも十分に冷却できるため、追加投資を抑えたい初心者にも最適である。

Ryzen 5 5600T:省電力重視の選択肢
6コア12スレッドで基本クロック3.5GHz、最大ブーストクロック4.5GHz、TDP65Wの5600Tは、低消費電力と小型パソコン構築を重視するユーザー向けのモデル。性能よりも電力効率を優先した設計により、ファンレスPCや省スペースシステムに適している。

Ryzen 3 5300G:エントリー向けAPU
4コア8スレッドの5300Gは、基本クロック4.0GHz、最大ブーストクロック4.2GHz、TDP65Wで動作する。内蔵グラフィックス搭載により、専用グラフィックカードなしでも基本的な作業やライトゲーミングが可能だ。

AMD Ryzen 7 5800X3D:ゲーミング特化の最強モデル
8コア16スレッドで動作する5800X3Dは、3D V-Cache技術により100MBの巨大キャッシュを搭載したゲーミング特化CPUだ。基本クロック3.4GHz、TDP105Wの設定で、ゲーミング性能では他を圧倒する。
ゲーミング性能の真価は1% Low FPSにある。平均FPS値だけでなく、実際のゲームプレイ時の滑らかさを示す1% Low FPS値が重要だ。5800X3Dは1% Low FPS値で60以上を安定して維持でき、真のヌルヌル体験を提供する。
PBO設定で「All Core」を-30に調整すると温度を効果的に下げられるが、排熱対策が難しく、自作PC初心者には性能を十分に発揮させるのが難しいかもしれない。冷却環境の構築が前提となる。

RTX 4080や4090といったハイエンドGPUと組み合わせても、CPUボトルネックを起こさない性能を持つ。
AMD Ryzen 7 5700X3D:バランス重視の3D V-Cache搭載モデル
8コア16スレッド、100MBキャッシュを搭載した5700X3Dは、基本クロック3.0GHz、TDP105Wで動作する。5800X3Dと比較してより扱いやすい温度特性を持つモデルだ。
省電力設定で最大プロセッサを90%に調整すると温度が下がり、ブラウジングなどの軽作業では問題なくサクサク動作する。
5800X3Dほどの冷却要求は厳しくない。ゲーミング性能では5800X3Dに若干劣るものの、価格と性能のバランスを重視するユーザーには魅力的だ。
省電力設定との相性が良く、用途に応じた細かな調整により、性能と消費電力の最適化が可能だ。3D V-Cache技術の恩恵を受けつつ、より現実的な運用ができるモデルといえる。

以上のCPUは、UEFI設定の理解が必須という共通点も重要だ。5900XTと5800XTには45Wや65Wといった省電力モードが用意されており、用途に応じた細かな調整ができる。CPU温度の反応が良く、一時的に急上昇する傾向があるため、適切な設定が性能を最大化する鍵となる。
新AM4 CPUの冷却対策と省電力設定完全ガイド
2024年新登場のAM4 CPUは、適切な冷却と設定により真の性能を発揮する。特に5900XTと5800XTは、UEFI設定の理解が必須となる高機能モデルだ。
大型空冷クーラーの実用性
公式では水冷が推奨される5900XTだが、大型空冷クーラーで十分に冷却できる。実際の運用では、風魔3クラスの空冷クーラーがあれば16コア32スレッドの5900XTでも安定動作を維持できる。
5800XTも同様に大型空冷クーラーで対応可能で、付属のAMD Wraith Prismクーラーでも基本的な冷却は行えるが、より静音性と冷却性能を求めるなら大型空冷クーラーの導入を推奨する。5600XTと5600Tは付属のWraith Stealthクーラーで十分だ。
UEFI省電力モードの活用法
5900XTと5800XTには45W、65W、高機能モードといった複数の動作モードが用意されている。この設定はUEFI(BIOS)画面から変更でき、用途に応じて最適化できる。
45Wモードは省電力を最優先にした設定で、ファンレスPCや超小型ケースでの運用に適している。65Wモードは性能と消費電力のバランスを取った実用的な設定だ。高機能モードはフル性能での動作となるが、適切な冷却環境が前提となる。
温度特性の注意点
新AM4 CPUは温度変化への反応が良く、一時的に急上昇する傾向がある。これは異常ではなく、負荷に応じて瞬時にクロックアップする仕様によるものだ。
温度監視ソフトでは瞬間的に高温を示すことがあるが、平均温度と最大温度の両方を確認することが重要だ。適切な設定と冷却により、日常使用では問題なく運用できる。
UEFI設定では温度制限値も調整できるため、使用環境に合わせた細かなチューニングが可能だ。初期設定のまま使用するより、環境に最適化した設定により、性能と静音性の両立を実現できる。
2024-2025年版:おすすめAM4マザーボード4選
2024年から2025年にかけて、AM4新モデルと同時に低価格マザーボードも続々と発売されている。新AM4 CPUとの組み合わせを考慮した、おすすめモデル4選を紹介する。
ASUS PRIME A520M-K:予算重視の基本構成
AMD A520チップセットを採用したエントリーモデルで、MicroATXフォームファクタを採用している。PCIe 4.0には非対応だが、価格を最優先にしたい構成には最適だ。
VRM(電源回路)はシンプルな設計のため、Ryzen 3 5300GやRyzen 5 5600Tとの組み合わせが理想的である。高性能CPUやオーバークロックには不向きだが、基本的な用途なら十分な安定性を提供する。M.2スロットはPCIe 3.0対応で、日本語対応BIOSにより初心者でも扱いやすい。

GIGABYTE B550M DS3H AC R2:無線環境対応のコスパモデル
B550チップセット採用でPCIe 4.0に対応し、Wi-Fi ACとBluetoothを標準搭載している。MicroATXサイズながら、2基のM.2スロット(うち1基はPCIe 4.0)を備える。
Ryzen 5 5600XTやRyzen 7 5800XTとの相性が良く、無線環境を整えたいユーザーに最適だ。HDMIとDVI出力端子を搭載するため、APU使用時にも便利である。基本的な冷却性と安定性を備え、中級者向けの構成に適している。

ASRock B550M WiFi:ドスパラ限定の特別仕様
ドスパラ専売モデルとして登場したB550チップセット搭載マザーボードで、Intel製Wi-Fiモジュールを内蔵している。ASRock独自のBIOS設定により、細かなチューニングが可能だ。
M.2スロット2基(1基はPCIe 4.0対応)を搭載し、Ryzen 5 5600XTから5800XTまで幅広く対応できる。GIGABYTE DS3H AC R2と似た構成だが、ASRockのインターフェースを好むユーザーや、ドスパラでの一括購入を考えるユーザーに適している。

GIGABYTE B550 GAMING X V2:拡張性重視のATXモデル
フルサイズATXを採用したゲーミング向け設計で、VRM強化済みによりRyzen 9 5900XTにも対応できる電源回路を持つ。Wi-Fi非搭載だが、有線LAN環境での安定性を重視している。
拡張カードを複数使用する構成や、将来的なアップグレードを見据えた構成に最適だ。M.2スロットにはPCIe 4.0対応の放熱用ヒートシンクが付属し、メモリオーバークロックにも対応している。
CPU別最適組み合わせでは、5300G+A520M-K、5600XT+B550M DS3H AC R2、5800XT+B550M WiFi、5900XT+B550 GAMING X V2の構成が、性能と価格のバランスを考慮した理想的な選択となる。

AM4で実現する低価格ゲーミングPC構成例
新AM4 CPUとマザーボードの組み合わせにより、組み合わせるCPUとグラボ次第では低価格のゲーミングPCが構築できる。予算別の具体的な構成例を紹介する。
5万円構成:エントリーゲーミングの基盤
CPU:Ryzen 3 5300G(約1.5万円)
マザーボード:ASUS PRIME A520M-K(約0.8万円)
メモリ:DDR4-3200 16GB(約0.8万円)
ストレージ:NVMe SSD 500GB(約0.6万円)
電源:450W 80PLUS(約0.5万円)
ケース:MicroATX対応(約0.8万円)
この構成では内蔵グラフィックスでライトゲーミングを楽しめる。将来的にグラフィックカード追加により性能向上も可能だ。APU構成のため、まずはゲーミング環境を体験したい初心者に最適である。
10万円構成:1080pゲーミングの実用レベル
CPU:Ryzen 5 5600XT(約1.5万円)
マザーボード:GIGABYTE B550M DS3H AC R2(約1.2万円)
グラフィックカード:GeForce GTX 1660 SUPER(約2.5万円)
メモリ:DDR4-3200 16GB(約0.8万円)
ストレージ:NVMe SSD 1TB(約1.0万円)
電源:650W 80PLUS Bronze(約0.8万円)
ケース:MicroATX対応(約1.0万円)
その他パーツ(約1.2万円)
6コア12スレッドのCPUとミドルレンジGPUの組み合わせにより、1080p解像度での快適なゲーミングを実現できる。Wi-Fi内蔵マザーボードにより、設置場所の自由度も高い。
15万円構成:1440pも視野の本格仕様
CPU:Ryzen 7 5800XT(約3.0万円)
マザーボード:GIGABYTE B550 GAMING X V2(約1.8万円)
グラフィックカード:GeForce RTX 4060(約4.0万円)
メモリ:DDR4-3600 32GB(約1.5万円)
ストレージ:NVMe SSD 1TB Gen4(約1.2万円)
電源:750W 80PLUS Gold(約1.2万円)
CPUクーラー:大型空冷(約0.8万円)
ケース:ATX対応(約1.5万円)
8コア16スレッドCPUとRTX 4060の組み合わせにより、1080p高設定から1440p中設定まで対応できる。PCIe 4.0対応により将来的なグラフィックカード換装にも備えている。
グラフィックカードとの相性
Ryzen 5 5600XTはGTX 1660 SUPERからRTX 4060まで幅広く対応でき、ボトルネックの心配は少ない。Ryzen 7 5800XTならRTX 4070クラスまで十分に活用できる性能を持つ。
AM4プラットフォームの最大の利点は、段階的なアップグレードが可能な点だ。最初はエントリー構成で始め、後からグラフィックカードやCPUを換装することで、長期間にわたって性能向上を図れる。
AM4プラットフォーム継続使用のメリットと将来性
AM4プラットフォームの継続使用は、コストパフォーマンスと実用性の両面で大きなメリットを提供する。既存ユーザーにとって、DDR4メモリ資産の活用は重要な要素だ。
DDR4メモリ資産の有効活用
現在使用しているDDR4メモリをそのまま流用できる点は、AM4最大の魅力である。DDR5メモリの価格は依然として高く、同容量のDDR4と比較すると2倍近い価格差がある。
既存の16GBや32GBキットをそのまま使用できるため、メモリ購入費用を節約して、CPUやグラフィックカードにより多くの予算を割り当てられる。
既存マザーボードでのアップグレード戦略
2017年以降のAM4マザーボードなら、BIOSアップデートにより新CPU対応が可能になるケースが多い。B450やX470世代のマザーボードでも、5000番台CPUへの換装により大幅な性能向上を実現できる。
CPU換装だけで済む手軽さは、全面的なプラットフォーム変更と比較して圧倒的に簡単だ。既存の周辺機器や設定もそのまま使用でき、移行時のトラブルリスクも最小限に抑えられる。
AM5移行タイミングの判断基準
AM5への移行を検討すべきタイミングは、現在の用途で性能不足を感じたときだ。ゲーミング用途なら、AM4の5800XTや5900XTでも当面は十分な性能を発揮する。
DDR5メモリ価格の安定化やAM5対応マザーボードの低価格化が進むまでは、AM4での運用継続が現実的な選択だ。予算を抑えたい場合や、既存環境に満足しているなら、無理にAM5へ移行する必要はない。
AM4エコシステムは、長期サポートの安心感も大きなメリットだ。新製品の追加により選択肢も豊富になっており、用途に応じたCPU選択が可能だ。