
データを複数の端末で同期する手段として、Dropboxや Google Driveなどのクラウドストレージサービスが広く普及している。これらのサービスは高い利便性を誇るものの、プライバシーやセキュリティ面での懸念から、クラウドに依存しない同期方法を求めるユーザーも増加している。
Syncthingはこうした要望に応える。オープンソースで開発されたSyncthingは、端末間で直接データを同期する分散型アーキテクチャを採用。クラウドサーバーを介さないP2P通信により、データは常に暗号化された状態で転送され、外部からのアクセスを完全に遮断できる。
従来のクラウドストレージと異なり、Syncthingではストレージ容量の制限がなく、同期するファイルの選択も柔軟に行える。さらに、同期先の端末を厳密に管理できるため、特定のデバイス間でのみデータを共有するといった運用も可能だ。
Syncthingの特徴と利点
Syncthingはスイスのコミュニティが開発を続けるオープンソースソフトウェアだ。ソースコードを公開し、無料で使用できるため、商用サービスのようなコストや制限を気にする心配はない。
暗号化通信技術のBlock Exchange Protocolにより、端末間の通信は強固なセキュリティで保護される。データはAES-128で暗号化され、TLS1.3で転送されるため、第三者による盗聴や改ざんを防ぐ。クラウドサーバーを介さないP2P通信により、データが外部に漏洩するリスクも排除できる。
分散型システムの採用で、同期先の端末とインターネット接続さえあれば、いつでもどこでもファイルを同期できる。同期するファイルやフォルダを自由に選択でき、ストレージ容量の制限もない。変更の監視も自動で行われ、新しいファイルや更新があると即座に同期を開始する。
WindowsやmacOS、Linuxに対応し、AndroidやiOSでも利用できる。NASやRaspberry Piといった組み込み機器でも動作するため、柔軟なシステム構築が可能だ。さらに、WebGUIでの操作により、技術的な知識がなくても直感的に設定や管理ができる。
各端末は固有のデバイスIDで識別され、許可した端末とのみ同期を行う。バージョン管理機能も備え、誤って削除や上書きしたファイルも復元できる。
インストールと初期設定
Syncthingは各OSで異なるインストール方法を採用している。Windowsユーザーは公式サイトから実行ファイルをダウンロードするだけでよい。macOSではHomebrewパッケージマネージャーを使用し、brew install syncthingコマンドでインストールする。Linuxディストリビューションでは、パッケージマネージャーを通じて入手できる。Ubuntuならapt install syncthingを実行する。
インストール後、Syncthingは自動的にWebブラウザのGUIを開く。開かない場合はhttp://localhost:8384にアクセスする。初回起動時に表示される警告は、セキュリティ上の理由から無視せず、必ずパスワードを設定する。
デバイスの追加は以下の手順で行う。
- 同期したい端末にもSyncthingをインストールする
- 各端末のWebGUIから「デバイスID」を確認する
- 「デバイスを追加」をクリックし、相手端末のデバイスIDを入力する
- デバイス名を分かりやすい名前に変更する
- 両端末で接続を承認する
デバイスの追加後、同期フォルダを設定する。「フォルダを追加」から同期したいフォルダを選択し、共有するデバイスにチェックを入れる。フォルダIDは端末間で統一し、ラベルは分かりやすい名前を付ける。
デフォルト設定では同期の即時性を重視しているため、バッテリー消費が気になるユーザーは同期間隔を調整できる。また、ネットワーク使用量の制限やCPU使用率の調整も可能だ。
初期設定完了後、Syncthingは自動的にファイルの監視と同期を開始する。リソース使用を抑えたい場合は、タスクトレイから一時停止することもできる。
Syncthingの仕組み 基本的な構成と通信の流れを示した図

基本的な使い方
Syncthingでフォルダを共有するには、WebGUIから「フォルダを追加」を選択する。フォルダIDは一意の識別子として機能し、同期する端末間で同じIDを使用する。フォルダパスには実際に同期したい場所を指定し、ラベルには用途が分かる名前を付ける。
同期の細かな挙動は「詳細設定」から調整できる。「ファイルのプル」では同期の方向を制御する。双方向の同期が基本だが、「送信のみ」や「受信のみ」を選択すれば、バックアップ用途にも対応できる。「ファイルバージョン管理」を有効にすると、ファイルの変更履歴を保持し、誤った操作からの復旧も容易になる。
バージョン管理には「シンプル」「ステージド」「外部」の3種類がある。シンプルは指定した日数分の履歴を保持し、ステージドは経過時間に応じて保存間隔を変更する。外部は独自のスクリプトによる柔軟な管理を実現する。
同期オプションのカスタマイズも豊富だ。「無視するパターン」では、特定の拡張子や名前のファイルを同期対象から除外できる。一時ファイルや中間生成物を自動的にスキップしたいときに便利である。
リソース使用量の調整も可能だ。「リソース使用」タブでは、同期の間隔やCPU使用率、ネットワーク帯域を制御できる。モバイル端末ではバッテリー消費を抑えるため、同期間隔を長めに設定するのが賢明である。
高度な設定として、「ファイルのパーミッション」では権限の同期も制御できる。Linuxサーバーとの同期時に特に重要となる。また、「フォルダの競合」設定では、同時編集時の衝突をどう解決するかを指定できる。
ファイルの同期状況は「最近の変更」で確認できる。同期エラーが発生した場合は、ログから原因を特定し、必要に応じて設定を見直す。定期的なログの確認は、安定した運用のための基本である。
Syncthingの動作プロセス

Syncthingで必要な要素
Syncthingを稼働させるには、各デバイスに固有の識別子となるデバイスIDが基本要素となる。このIDは64文字の英数字で構成され、「XXXXXXX-XXXXXXX-XXXXXXX-XXXXXXX」のような形式でデバイスの認証に使用する。
同期するフォルダを識別するフォルダIDも重要な要素だ。documentやphotosなど、任意の文字列を設定でき、同期するデバイス間で一致させる必要がある。
WebGUIの操作にはAPIキーが必要となる。このキーは設定ファイルに保存され、初回起動時に自動生成される。
通信に必要なポートは3種類ある。デバイス間の通信にはTCP/UDP 22000番、WebGUI用にTCP 8384番、ローカルデバイスの発見用にUDP 21027番を使用する。
これらの要素は初回起動時に自動的に生成されるが、運用方法に応じて手動での設定変更も可能だ。
必要な設定情報
デバイスID
- 各デバイスに固有の識別子
- 64文字の英数字
- デバイスの認証に使用
- 例:7BUPHT4-XXXXXXX-XXXXXXX-XXXXXXX
フォルダID
- 同期フォルダの識別子
- 同期するデバイス間で一致が必要
- 任意の文字列を設定可能
- 例:documents、photosなど
APIキー
- GUI操作用の認証キー
- 設定ファイルに保存
- 自動生成される
必要なポート
- TCP/UDP 22000:デバイス間の通信
- TCP 8384:WebGUI用
- UDP 21027:ローカルデバイス発見用
活用シーン別設定例
スマートフォンの写真をPCと同期する設定では、Androidアプリの「Camera Upload」機能が便利だ。カメラフォルダを監視し、新しい写真を自動的に指定したPCへ転送する。バッテリー消費を抑えるため、WiFi接続時のみ同期するよう設定できる。iOSではファイルアプリを介して同期フォルダを指定する。
複数のPCでドキュメントを共有する場合、競合を防ぐ設定が重要になる。「バージョン管理」を「ステージド」に設定し、30日分の変更履歴を保持する。同時編集による衝突時は、競合ファイルとして保存され、データの損失を防ぐ。
バックアップシステムとして利用するなら、NASやRaspberry Piとの連携が効果的だ。送信専用の同期設定により、PCからNASへの一方向バックアップを実現できる。ファイルの削除も同期されないよう「ゴミ箱」機能を有効にし、誤削除への備えとする。
外出先からのアクセスを想定するなら、リレーサーバー経由の接続を許可する。ただし、帯域制限により転送速度は低下する。自宅のルーターでポート開放を行えば、直接接続による高速な同期が可能になる。
トラブルシューティング
同期が開始されない事態では、まずWebGUIのステータス表示を確認する。デバイス間の接続状態が「切断」を示す場合、ファイアウォールがSyncthingの通信を阻害している可能性がある。ポート22000のTCP/UDP通信を許可する。
WebGUIにログインできなくなったときは、設定ファイルを手動で修正する。Windowsなら%LOCALAPPDATA%\Syncthing、Linuxなら~/.local/state/syncthingにあるconfig.xmlを編集し、APIキーをリセット。syncthingフォルダ自体を削除しても良い。
パフォーマンスを最適化するには、不要なバージョン履歴を定期的に整理し、同期間隔を調整する。大量の小さなファイルよりも、少数の大きなファイルの同期が効率的だ。
まとめと発展的な使い方
Syncthingの発展的な活用には、リバースプロキシを用いたHTTPS接続の確立がある。Nginxと連携することで外部からの安全なアクセスを実現できる。APIを利用した自動化も可能だ。シェルスクリプトやPythonから操作を制御し、バックアップの自動化やファイル処理の効率化を図れる。
