
Linuxのインストールには、まずusbメモリにISOイメージを書き込むわけだが、いちいちUSBメモリをフォーマットして書き込むのを面倒に感じたことはないだろうか。
Linuxオペレーティングシステムのインストール用メディアとしてUSBメモリが一般的だが、作業効率には課題がある。
書き込んだISOイメージファイルはUSBメモリ1本につき1つの制限がある。複数のディストリビューションを試したいユーザーは、USBメモリのフォーマットと書き込みを繰り返すか、複数のUSBメモリを準備しなければならない。
128GBのUSBメモリが普及しているが、これに3GB程度のイメージファイル1つを書き込むのは容量の無駄遣いである。また、8GBメモリと比較して書き込み時間が増大する。近年の大容量化が進み、市場から8GBメモリが消えつつあり、手軽なテスト環境の構築が逆に難しくなっている。
Arch LinuxでVentoyを実践するメリットと基礎知識
USBメディアに複数のISOイメージを保存する高機能なブートローダーVentoyはこの常識を覆した。従来のUSBブートメディア作成ツールと異なり、ISOファイルをドラッグ&ドロップするだけでブート可能な状態にできる。
https://www.ventoy.net/en/index.html
最小限のセットアップを旨とするArch Linuxユーザーにとって、Ventoyの存在価値は絶大だ。システムの再インストールやライブ環境の構築、新規ディストリビューションの検証など、高度な作業を1本のUSBメディアで完結できる。バックアップやリカバリー作業もUSBメディアの付け替えなしで実行可能になる。
Ventoyは毎週のようにアップデートを重ね、数多くのディストリビューションやISOイメージに対応する。EFI/BIOSの両方のブートに対応し、GPTやMBRパーティションテーブルも柔軟に扱える。ブートメニューも日本語表示に対応済みだ。
LinuxユーザーはVentoyを導入するだけでブートメディアの作成から管理まで一元化できる。本記事ではArch LinuxにおけるVentoyの導入から実践的な活用法まで詳しく解説する。
Ventoyをダウンロード
公式サイト にアクセスし、使用するOSに合ったバージョンをダウンロードする。
- Windowsの場合: ventoy-x.x.x-windows.zip
- Linuxの場合: ventoy-x.x.x-linux.tar.gz
そして、Ventoyを入れるUSBメモリを準備する。VentoyをインストールするとUSBメモリ内のデータはすべて削除されるので注意する。
Ventoyのインストール手順と実装のポイント
Ventoyのインストール作業は実行環境で大きく異なる。まずWindowsの作業手順を解説する。
ZIPファイルを展開後、管理者権限でVentoy2Disk.exeを実行する。デバイスマネージャーからUSBメモリを選択した後、Installボタンを押すだけで書き込みが開始される。ダイアログの確認メッセージに同意するとインストールが進行する。
Linuxではtarコマンドでアーカイブを展開する。
tar -xzf ventoy-x.x.x-linux.tar.gz
cd ventoy-x.x.x
展開したventoy-x.x.xディレクトリ内のVentoyGUI.x86_64を実行してパスワードを入力して起動する。差し込んだusbメモリを指定してventoyをインストールする。この方法はventoyをPCにインストールする必要がない。
CLIモードを使うならデバイス名の指定には細心の注意が求められる。誤ったドライブを選択すると既存データが消失してしまう。lsblkコマンドで正確なデバイス名を確認しておく。
lsblk
出力結果からUSBメモリのデバイス名を特定する。サイズや接続順序を考慮して慎重に判断する。
arch系ディストリビューションでGUIモードを使うなら
sudo pacman -S ventoy

でインストール後に通常のアプリケーションとして起動させたらusbメモリを指定する。
インストール完了後はデバイスが2つのパーティションに分割される。1つ目はVentoyシステム用、2つ目はISOファイル保存用だ。この2パーティション構造がVentoyの特徴を生み出す。
WindowsとLinuxのどちらの環境でも、インストール後の基本機能は同一だ。共通のインターフェースでISOファイルを管理できる。
OSイメージの追加とVentoyの活用術
Ventoyの真価はISOファイルの取り扱いにある。従来のライブUSB作成ツールはISOイメージごとにUSBメモリをフォーマットする手順を必要としたが、Ventoyは通常のファイル操作でブートメディアを実現する。
USBメモリにISOファイルを単純にドラッグアンドドロップするだけでライブUSBが完成する。フォーマット作業を省略でき、複数のISOイメージを1本のUSBメモリに格納できる。大容量USBメモリの活用価値を最大限に引き出すツールである。
ISOファイルはUSBメモリの第2パーティションに直接保存する。任意のファイルマネージャーでドラッグ&ドロップが使用できる。転送速度を重視するならrsyncコマンドも有効な選択肢だ。
rsync -av --progress source.iso /path/to/ventoy/
ディレクトリ構造による整理も推奨される。Linuxディストリビューション、Windows、診断ツールなど、用途別のフォルダで管理すると見通しが向上する。
ventoy/
├── linux/
│ ├── archlinux.iso
│ └── ubuntu.iso
├── windows/
│ └── win10.iso
└── tools/
└── memtest86.iso
ファイル名の変更も自由度が高い。日本語名称への変更やバージョン番号の追記など、管理しやすい形式に整備できる。
ISOファイルの追加・削除はシステム稼働中でも実行可能だ。空き容量の制限内で何個でも追加できる。不要になったISOは通常のファイル削除で対応する。
第2パーティションはext4やNTFSでフォーマットできる。クロスプラットフォーム環境ではNTFSが実用的だ。大容量ファイルの制限がなく、WindowsとLinuxの双方でアクセスできる。
PCのブート環境設定とVentoyの起動手順
USBメモリからの起動には各マシン固有のブート設定が求められる。BIOSやUEFIの設定画面へは起動直後の特定キーで進入する。一般的なキーはDELL系はF12、Lenovo系はF12またはF1、HP系はF9、ASUS系はF8やESCとはなっているが、マザーボードのマニュアルで確認しておくのが確実だ。
起動順序の変更はブートメニューから実行する。USBストレージを最優先に設定すると自動的にVentoyが立ち上がり、選択画面に入る。セキュアブートが有効な環境では無効化が必要になる。
Ventoyのブートメニューは直感的な操作性を備える。上下キーでISOイメージを選択し、Enterキーで起動を開始する。メニューには保存したISOファイルが自動的に一覧表示される。
追加機能としてF2キーでブートオプションの指定も可能だ。カーネルパラメータの追加やメモリ使用量の調整など、高度な起動制御にも対応する。ESCキーで前の画面に戻れる。
起動に失敗する際は以下の点を確認する。
- USBポートを別のものに差し替える
- レガシーブートとUEFIブートの切り替え
- セキュアブートの設定状態
- ISOファイルの整合性
ブートメニューの表示言語は自動的に日本語に設定される。必要に応じてF1キーで他言語への切り替えも可能だ。
その他の機能(応用)
永続ストレージ機能はLinuxディストリビューションの活用幅を広げる。USBメモリ内に固定領域を確保することで、ライブ環境でもデータや設定を維持できる。
JSONによる設定変更も強力な機能だ。ventoy.jsonファイルを編集することでブートメニューを完全にカスタマイズできる。
セキュアブート環境への対応も整備されている。専用の鍵ファイルを導入することで、UEFIセキュアブートが有効な状態でも起動できる。
Ventoyで発生する不具合への実践的な対処法
起動不良の多くはISOイメージの互換性に起因する。不具合の状況を見極めて適切な対処を選択する。
ISOファイルの整合性検証が最初の対処だ。
sha256sum /path/to/iso
算出したハッシュ値を公式サイトの値と照合する。不一致なら再ダウンロードを実施する。
ブート設定の最適化も重要な要素だ。
- レガシーモードとUEFIモードの切り替え
- USB 3.0ポートから2.0ポートへの変更
- 別のUSBポートでの動作確認
セキュアブート関連の不具合は設定変更で解消する。
# セキュアブート対応を有効化
./Ventoy2Disk.sh --secure-boot /dev/sdX
UEFIメニューからセキュアブートを無効化するのも有効な対処法だ。
USBメディアの再初期化で改善するケースもある。
# Ventoyの再インストール
sudo ./Ventoy2Disk.sh -u /dev/sdX
sudo ./Ventoy2Disk.sh -i /dev/sdX
最新バージョンのVentoyを使用することで多くの不具合が解消される。定期的なアップデートを推奨する。
Ventoyに最適なUSBメモリの選び方と容量の目安
USBメモリの選定は搭載するISOイメージの総容量から判断する。主要なISOファイルのサイズは以下の通りだ。
- Windows 11: 5GB程度
- Windows 10: 5GB程度
- Ubuntu: 2GB程度
- Arch Linux: 1GB程度
基本構成で13GB前後の容量を消費する。余裕を持った運用には16GB以上がほしいところだ。8GBでも使えるが2つ以上のISOを入れるには小さい。32GB~128GBのUSBメモリは安価になったので大きめの容量でいいだろう。
用途別の推奨容量は以下のように分類できる。
16GB
- 2~4個の小規模なLinuxディストリビューション
- 基本的な診断ツール
32GB
- WindowsとLinuxの併用
- 複数バージョンのLinux
64GB
- 複数のWindows ISO
- 多数のLinuxディストリビューション
- 各種診断・復旧ツール
128GB以上
- 大容量カスタムOS
- バックアップツール
- 将来の拡張性確保
転送速度も重要な要素だ。USB 3.0/3.1以上対応のモデルを選択する。高速な書き込みはISOファイルの更新作業を効率化する。
信頼性の高いメーカー製品を推奨する。
- SanDisk Ultra Fit
- Samsung FIT Plus
- Kingston DataTraveler
ファイルシステムはexFATかNTFSが適している。大容量ISOファイルの制限がなく、クロスプラットフォームでの運用が容易になる。
注意点
安価すぎるUSBメモリは速度が遅いことが多いため、無名のメーカーではなく、SanDisk、Samsung、Kingstonなど信頼性の高いメーカーの製品を選ぶと良い。VentoyをUSBにインストールした後、そのUSBメモリはフォーマットされ、USBメモリ内のデータが失われることに注意しておこう。
