
Linuxを使うなかでファイルシステムの選択は根幹を決める重大な判断だ。データの読み書き速度、信頼性、バックアップ手法まで、システム全体の性能と安定性に大きな影響を与える。
Arch Linuxは豊富なファイルシステムをサポートする。ext4やXFS、Btrfsなど、各ファイルシステムには独自の特徴があり、用途に応じて使い分けることでシステムを最大限に活用できる。
データベースサーバーには書き込み性能に優れたXFS、開発環境では、スナップショット機能を持つBtrfs、家庭用NASならext4、というように目的によって最適なファイルシステムは異なる。
選択の幅が広いぶん、どのファイルシステムを採用するかの判断は慎重に行いたいところだ。この記事では各ファイルシステムの実力を解説していく。
ファイルシステムとは
ファイルシステムはデータの保存方法と管理方法を定めた仕組みだ。ストレージ上のデータ配置、アクセス権限の管理、ファイル名とデータの対応付けなどを制御する。
Arch Linuxのインストール時にファイルシステムを選択すると、後からの変更は困難となる。パーティションごとに異なるファイルシステムを採用できるが、/ (ルート)パーティションのファイルシステム変更には再インストールが必要となる。
データの移行なしにext2からext3への変更は可能だが、その他のファイルシステム間の変更にはバックアップと復元作業が求められる。変更時のデータ消失を防ぐため、重要なデータは事前にバックアップを取得する。
システムの用途やハードウェア構成を踏まえ、インストール前に十分な検討が欠かせない。将来的な拡張性やデータ量の増加も考慮に入れ、最適なファイルシステムを選択することでシステムの長期運用を支える土台となる。
基本的なファイルシステムの特徴
ext2
ext2は、GNU/Linux向けに開発された最初の標準ファイルシステムだ。単純な構造と高い安定性を備え、20年以上の実績がある。ジャーナリング機能を持たないため、システムが突然停止したときのデータ復旧に時間がかかる。一方、書き込み回数が少なくて済むため、SDカードやUSBメモリなどのフラッシュメモリに向いている。/bootパーティションにも広く採用されている。
ext3
ext3はext2にジャーナリング機能を追加したファイルシステムだ。ジャーナリングとは、データの書き込み履歴を記録する機能で、システム障害からの復旧を高速化する。ext2と完全な互換性を持ち、ext2からext3への移行も容易だ。最大ファイルサイズは2TBに制限される。中規模のサーバーやデスクトップPCで安定した性能を発揮する。
ext4
ext4は現在のLinuxで標準的に使われるファイルシステムだ。最大ファイルサイズは16TB、ファイルシステム全体で1エクサバイトまでの容量に対応する。エクステント機能により大容量ファイルの読み書きを効率化し、遅延割り当てによってディスクの断片化を抑制する。ディレクトリには64,000個までのサブディレクトリを作成できる。マルチブロック割り当てやオンラインデフラグ機能も備え、現代のハードウェア性能を十分に引き出せる。
これら3世代のextファイルシステムは、GNU/Linuxの発展とともに進化してきた。互いの互換性を保ちながら、時代のニーズに合わせて機能を拡張している。用途や環境に応じて使い分けることで、それぞれの長所を活かせる。
高性能ファイルシステム群の実力
ReiserFS
ReiserFSは小さなファイルの処理に優れた高性能ファイルシステムだ。tail packingと呼ばれる技術で小容量ファイルを効率的に格納する。メールサーバーやウェブサーバーなど、多数の小容量ファイルを扱うサーバー環境で真価を発揮する。ディレクトリ内のファイル検索も高速で、/varディレクトリに最適だ。フォーマットは速いがマウント速度は他のファイルシステムより遅い。現在は積極的な開発が行われていないものの、安定性は高く実用に耐える。
JFS
JFSはIBMのAIXオペレーティングシステムで培われた技術を基に開発された。最大の強みはCPU負荷の低さにある。システムリソースを最小限に抑えながら安定した性能を発揮する。デッドラインI/Oスケジューラとの相性も良く、フォーマット、マウント、fsckt処理のすべてが高速だ。ノートPCなど、限られたリソースで動作するシステムに向いている。ext4やXFSと比べるとツール類の充実度では劣るものの、堅牢性は折り紙付きだ。
XFS
XFSはSilicon Graphics社が大規模システム向けに開発したファイルシステムだ。大容量ファイルの読み書きに優れ、最大ファイルサイズは8エクサバイトに達する。B-treeインデックスによりディレクトリ操作を効率化し、遅延ログによってメタデータの書き込みを最適化する。動的なinode割り当てやリアルタイムデバイスのサポートなど、先進的な機能も充実している。オンラインでのデフラグやパーティションの拡張にも対応する。ファイルサーバーや動画編集ワークステーションなど、大容量データを扱うシステムで力を発揮する。
これらの高性能ファイルシステムには、それぞれ得意分野がある。ReiserFSは小ファイル処理、JFSは省リソース動作、XFSは大容量ファイル処理と、用途に応じて使い分けることで最大の効果を引き出せる。縮小や移行には一部制約があるため、導入時に十分な検証が求められる。
最新のファイルシステム技術と実務での活用
Btrfs
Btrfsはコピーオンライト方式を採用した次世代ファイルシステム。スナップショット機能によりシステムの状態を瞬時に保存でき、障害発生時の復旧を容易にする。複数のストレージプールを束ねてRAID構成を組むことも可能で、柔軟なストレージ管理を実現する。データの圧縮機能や重複排除機能も備え、ストレージ容量を効率的に使える。サブボリュームを作成することで、単一のパーティション内で異なる設定を使い分けられる。
ファイルシステムの整合性チェック機能も搭載し、破損の検出と修復を自動的に行う。ext4やXFSと比べて新しい技術のため、本番環境での採用には慎重な姿勢を取るユーザーも多いが、開発は活発に進められている。
ZFS
ZFSはSun Microsystemsが開発した高機能なファイルシステムだ。強力なデータ保護機能を備え、チェックサムによる破損検出やself-healingによる自動修復を行う。スナップショットやクローン機能も実装し、バックアップやテスト環境の構築を効率化する。
ストレージプールの概念を導入し、物理デバイスを論理的なプールとして管理する。圧縮、暗号化、重複排除など、エンタープライズ級の機能を標準で備える。ライセンスの制約からLinuxカーネルへの統合は進んでおらず、追加パッケージのインストールが必要となる。
両ファイルシステムとも従来にない革新的な機能を提供し、データ管理の新たな可能性を広げている。システムの用途や運用方針に基づいて、これらの新技術を取り入れるかを判断することになる。
ユースケース別の最適なファイルシステム構成
デスクトップ環境にはext4が最も相性が良い。日常的な読み書きや一般的なアプリケーションの利用に十分な性能を発揮する。/homeディレクトリをext4で構築することで、安定した動作とデータの信頼性を両立できる。/bootパーティションにはext2を採用し、シンプルな構成でシステムの起動を確実にする。
サーバー環境では用途に応じた使い分けが鍵となる。ウェブサーバーやメールサーバーなら、小規模ファイルの処理に優れたReiserFSが有効だ。大規模なファイルサーバーやストリーミングサーバーにはXFSが最適解となる。データベースサーバーではXFSまたはext4を採用し、ジャーナリング設定を調整することでパフォーマンスを引き出せる。
開発環境では、Btrfsのスナップショット機能が威力を発揮する。コードの変更履歴を簡単に保存でき、実験的な変更も安全に行える。仮想マシンのイメージファイルを扱うときはXFSが優れた性能を見せる。テスト環境の構築にはBtrfsのサブボリューム機能が役立つ。
パフォーマンスとデータ保護の両立
ジャーナリングはファイルシステムの信頼性を高める基本機能だ。データ書き込みの履歴を保持し、システム停止時のデータ破損を防ぐ。ext3以降の標準ファイルシステムはすべてジャーナリング機能を搭載している。データモードとメタデータモードの2種類があり、ext4では書き込み性能と信頼性のバランスを調整できる。
バックアップはファイルシステムの選択と密接に関連する。Btrfsのスナップショット機能を活用すれば、システム全体のバックアップを瞬時に取得できる。増分バックアップにはrsyncとext4の組み合わせが実績を残す。XFSはダンプ/リストアツールが充実しており、大容量データの保護に向く。世代管理やオフサイトバックアップなど、複数の保護層を組み合わせることでデータの安全性を高められる。
