電源ユニットには、単なる電力変換以上の役割があることを理解する必要がある。
電源ユニットの主要な機能は、商用電源の交流をPCが必要とする直流電力に変換することだ。しかし優れた製品は、それ以上にシステム全体の安定稼働や、信頼性の確保にも貢献している。
古いPCでは、電源ユニットの故障が全体の動作不良の引き金となるケースが多く、構築時点で細心の注意は欠かせない。単なる変換器としてではなく、PCの命運を握る心臓部品としての認識が不可欠だ。過小評価せずに、本来の役割と必要性を考慮した選定が重要である。
選択のポイント
自作PC用電源ユニットを選ぶにあたり、事前に確認が必要なポイントがある。誤った選定を行うと、構築時の障害や追加コストの発生につながるリスクが生じるため、綿密に判断したいところだ。
選定に影響を与える主な要素として、マザーボードおよびCPUの消費電力、PCIeコネクタの本数、使用するGPUの消費電力とコネクタ形状、搭載ストレージや機器の要件などが上げられる。これらシステム全体の仕様を把握した上で、必要十分な電源容量と出力コネクタを満たす製品を選ぶ必要がある。
可能であれば、将来の拡張や乗り換えを考慮したうえで、若干過剰な容量の製品を選ぶことが合理的だ。電源ユニットこそがPCシステムの命運を握る最重要部品であることを認識し、精査の上で最適な選択を行いたい。
PC電力の要件
自作PC用電源ユニットを選ぶ際の最初のステップは、システムが要求する最小消費電力を正確に把握することである。必要電力量は、採用するパーツの消費電力に依存して変動するため、適切な算出が欠かせない。
例えば、高速なi7プロセッサとハイエンドGPUを搭載する場合、低速のi5とエントリークラスGPUを用いる構成と比べ、より高容量の電源ユニットが必要となる。
大まかな目安として、CPU/GPU/HDDなどのパーツ別消費電力に基本消費250Wと余裕分100Wを加えた数値を基準にするとよい。正確な要件把握のため、ドキュメントやメーカー情報を参考に適切な計算を行う必要がある。
有線またはモジュラー
電源ユニットには、ケーブル一体型の有線タイプと、本体からケーブルを分離したモジュラータイプがある。
モジュラータイプは必要なケーブルを選択接続できるため、不要ケーブルが発生せず配線の自由度が高まるが、有線タイプと比較して価格が高価になるのが通常である。これは構造上のコストより、提供される使い勝手の良さに依拠している。
また、主電源ケーブルのみ一体型でその他ケーブルが模块方式のセミモジュラー型も存在する。用途と予算を考慮して、使い易さとコストのバランスが取れたタイプを選びたい。余剰ケーブルが発生しにくいモジュラー方式を第一に選択したい。
電源コネクタ
有線タイプの電源ユニットを使用する場合、搭載される電源コネクタの種類・数がシステム構成上重要なポイントとなる。
まず、CPU電源端子がソケットと対応しているか(4ピン/8ピン)を確認する。次にGPUの電源コネクタが6ピン、8ピン、あるいは両方を備えているかなど、製品仕様上の要件を満たしているか精査が必要である。
モジュラー電源では余分なコネクタを外すことができるためある程度対応力が高いが、有線タイプの場合は、接続するパーツを事前に選び、必要十分なコネクタ部を有しているか注意深く判断する必要がある。コネクタ不足だと構築不能に陥るリスクが生じてしまう。
電源コネクター
自作PC用電源ユニットが備える代表的な電源コネクターを以下に示す。
20+4ピンコネクター
20+4ピンコネクターは、マザーボードへのメイン電源であり、マザーボード上のほぼ全ての機能に電力を供給する。
ATXやmATX形式のマザーボードを使用する場合、この24ピンすべてが必要になることが一般的である。ただし一部のマザーボードは20ピンのみ必要とする場合があるため、使用するマザーボードのマニュアルやメーカー情報で必要ピン数を確認する必要がある。
コネクターを接続する際には、ピン配置を正しく合わせるとともに、マザーボードを支えながら奥までしっかり差し込むことが大切である。
4+4ピンコネクター
4+4ピンコネクターはCPUへの専用電源で、最近のマザーボードでは8ピンコネクターを2つの4ピンに分割した形となる。
マザーボードやCPU側が4ピンのみ必要な場合は一方を使用する。一部の電源ユニットは4ピンコネクター1つのみを搭載している場合もある。
ピンの配置を正しく合わせ、奥までしっかり差し込むことが大切である。CPUへの電源供給ラインであることから、接続忘れや不備が故障の原因となりやすく注意が必要である。
PCIE 6ピンコネクター
PCIE 6ピンコネクターは、GPU(グラフィックスカード)への専用電力供給を目的としたものである。古いビデオカードの場合マザーボードからの給電が可能だったが、最近の製品では6ピン、あるいは6+2ピンのPCIeコネクターを必要とする。
例えば、AMD Radeon R9シリーズのように、複数(2つ)のPCIe電源入力を持つ高消費電力カードの場合、電源ユニット側にも十分なコネクターを有することが必須条件となる。GPUの仕様を確認した上で、必要なコネクター数とピン配列を備えた製品を選ぶ必要がある。
MOLEXコネクター
MOLEXコネクターは、古いHDDやODDなどの周辺機器接続用に利用されてきた電源コネクター標準の一つである。最近ではシリアルATA接続(SATA)に置き換わっていて使用頻度は低い。
有線タイプの電源ユニットではMOLEXコネクターを備えているものが多く、不要であれば単純に使用しないという対応になる。一方モジュラータイプなら不要コネクタを取り外すことが可能である。
最近のPC構成ではほぼ必要性がなくなったが、特定用途でレガシーなMOLEX機器を接続できるメリットがある。これは構成内容で判断する必要がある。
SATAコネクター
SATAコネクターは、HDDやODDなどのSATA規格デバイスへの電力供給を目的としている。システム上必要な台数分が搭載されていない場合、MOLEXコネクターからSATA電源へのアダプタを使用することも可能である。
複数のSATA電源コネクターは、同一ケーブル上にダイジー・チェーン接続で実装されていることが多い。必要数以上に余剰分が用意されている場合もあり、構成次第で有効活用できる要素ではある。システム要件に応じて搭載数を確認することが大切である。
モジュラー型電源ユニットは、ケーブルとコネクターを交換可能な構造とすることで、不要な配線を省くメリットがある。
不要部を外すことによりクリーンな内部配線が実現でき、エアフローや作業性の改善にもつながる。ほとんどの製品は、マザーボードや固定ディスク用電源ラインのみ一体型していて外せないようになっているが、「フルモジュラー」タイプではこれらも外せる。
コストが高くつくデメリットはあるものの、使用用途に応じて最適な選択が可能な点が強みである。
高性能なPSU
電源ユニットとしての極めて高い性能を求める場合、コストはさらに高騰することになるが、その代表例としてCorsair AX1500iがある。
1500Wという高容量に加え、デジタル制御方式を採用した点が大きな特徴で、実測94%を超える極めて高い電力効率を実現している。Zero RPM Modeでは低負荷時にファンを完全停止でき、静音性も確保した。
フルモジュラー設計で配線が容易、Corsair Link機能により電力性能を詳細監視、制御も可能である。余剰費用を払うに値する極上の1製品といえる。ただし予算限定の一般ユーザーには不向きな領域の製品でもあることには注意したい。
効率評価
電源ユニットに見られる効率の最低値と最高値の間にはかなりの差がある。これはPCの消費電力だけでなく、その電力がパーツにどのように分配されるかにも関係している。