中華ソフトのトラブルです。
WPS Officeは、中国のソフトウェア会社の金山軟件(Kingsoft Corporation)の子会社である金山弁公軟件(Kingsoft Office Software Corporation Limited)が開発、販売するオフィススイート製品である。日本では同社のジョイントベンチャーであるキングソフト株式会社が販売、サポートを行っている。WPSの名前は構成している各ソフトウェアの名称「Writer」「Presentation」「Spreadsheets」の頭文字に由来する。
かつてはKINGSOFT OfficeやKSOfficeなどと名乗っていたが、アメリカでは2014年に、日本では2016年にWPS Officeの名前へ順次統一されている。
「この原稿は違法です」中国のワープロソフト、未公開小説をロック
ある中国の小説家がクラウドで使っていたワープロソフトに原稿をロックされたと訴えている。原稿は未公開の状態だったとされ、中国のインターネットユーザーは国家の検閲がどこまで及ぶのか、疑心暗鬼になっている。
あなたが自宅のパソコンで小説を執筆しているとしよう。すでにおよそ100万語を書き上げ、完成は間近だ。ところが突然、クラウドで使っていたワープロソフトから、「この原稿には違法な情報が含まれているため開くことはできません」と通知された。これまで書き上げてきた言葉が、一瞬のうちに失われてしまった。
この話は今年6月、ミツ(Mitu)というペンネームで執筆している中国の小説家が実際に経験したことだ。ミツは「WPSオフィス」を使って小説を書いていた。
WPSは中国のソフト会社キングソフト(金山弁公軟件)が提供しているクラウドベースのワープロソフトで、グーグル・ドキュメントやマイクロソフトのオフィス365の中国版とも言えるサービスだ。ミツは6月25日、中国の文芸フォーラム「Lコング(Lkong)」上で、違法な情報が含まれていることを理由にWPSが「私の原稿をスパイし、ロックした」と非難した。
このニュースは7月11日になって、数人の著名なインフルエンサーのアカウントで取り上げられたことで、ソーシャルメディア上で爆発的に広まった。その日のウェイボー(微博)の最も人気のあるトピックとなり、ユーザーからはWPSがプライバシーを侵害しているのではないかとの疑問の声が上がった。
その後、中国紙エコノミック・オブザーバー(経済観察網)紙は、他の複数のネット小説家が過去に不明確な理由で原稿をロックされたことがあると報じた。
ミツの訴えは、検閲とテック・プラットフォームの責任について、中国のソーシャルメディア上で議論を引き起こした。また、中国のユーザーのプライバシーに対する意識の高まりと、政府に代わって検閲をする義務があるテック企業との間の、緊張関係も浮き彫りになった。北京の調査グループ、トリビアム・チャイナ(Trivium China)で、中国のサイバー・データ政策を分析しているトム・ナンリストは、「この2つが実際に衝突する可能性を、目の当たりにしているのかもしれません」と話す。
ミツによると、ロックされた文書はネット上に保存され、2021年は編集者と共有して仕事をしていたものの、今年になって突然ロックされた時にはミツだけが編集できる状態だったという。「文芸サイトでも公開できる、まったく内容に問題がない作品なのに、WPSはロックするべきだと判断したのです。ユーザーの個人的な文書を覗いて、それをどうするか恣意的に決定する権利は誰にあるのでしょうか」。
キングソフトによると、1989年に発売されたWPS(当時はパソコンソフト)の月間利用者数は3億1000万人に上るという。中国政府は安全保障を理由に、外国企業よりも自国の企業を強化しようとしているため、同社は政府からの助成金や契約による恩恵を受けている企業でもある。
キングソフトはミツの最初の訴え以来、2件の声明を発表している。WPSはローカルに保存されているファイルを検閲するものではないとしているが、ネット上で共有されているファイルについては明言を避け、曖昧なままだ。7月13日の声明では、中国のサイバーセキュリティ法とその他の関連規制を引用して、「インターネットで情報サービスを提供するすべてのプラットフォームは、プラットフォーム上で拡散されているコンテンツを確認する責任があります」と述べている。MITテクノロジーレビューはキングソフトにコメントを求めたが、回答はなかった。
WPSのユーザーたちは、キングソフトの最新の声明に対してウェイボーでコメントし、同社に回答を求めている。「私たちの文書を閲覧しないと保証できますか? できるなら使い続けますが、できないのなら料金を払い戻してください。数年前から使ってきましたが、今は恐怖を感じています」とあるユーザーは書いている。
WPSは、アルゴリズムによる検閲のトリガーとなるのが、コンテンツをネット上で共有する行為なのかどうか、公式に認めていない。しかし、7月13日にWPSのカスタマー・サービス・アカウントがウェイボーに残したコメントは、その仮説を裏付けているようだ。「クラウドで同期して(ドキュメントを)保存しても、検閲のトリガーにはなりません。文書の共有リンクを作成することだけがレビューの仕組みが発動するトリガーになります」 。
厳しい検閲に慣れている中国のインターネット・ユーザーにとってさえも、これは行き過ぎに思える。
文書共有プラットフォームが主流になるにつれ、中国では検閲の事例が多くなっている。しかし、それは通常、文書が広く共有されて閲覧された後に限られる。例えば2020年に、ジャングオ・ションディとして知られる中国人アーティストが、中国で要注意とされる単語をすべて列挙したドキュメントの寄稿を一般の人々から募った。文書共有プラットフォームのシモ(Shimo)が、この動きに気づいて検閲するまでにかかった時間は10時間近くだ。今月まで、ほとんどの中国人ユーザーは、友人や家族の間でしかやり取りしておらず、目立つようにしていなければ、当局の注視や監視を受けることはないと考えていた。
ユーザーにとっては不満かもしれないが、もしWPSがすべてのユーザー文書を検閲するという慣習は(実際に起きているとすれば)、中国のサイバーセキュリティ法で認められる範囲である可能性が高いとナンリストは話す。すべてのインターネット・サービスプロバイダーは、「法律または行政指導による規制で公開または送信が禁止されている情報を発見した場合」、自社プラットフォーム上のコンテンツを削除し、ブロックする義務があると同法47条に記載されている。
中華ソフトは気をつけないと