パソコンの各部品への電力供給を担う電源ユニットは、パソコンの「心臓部」と例えられる重要な部品である。
電源ユニットは、家庭用交流電源を直流に変換してパソコン内部に供給している。この変換時のロスが大きいと、電力が無駄に消費され、パーツへの電力供給が不安定になり、パソコンの動作不良や意図しないシャットダウンなどのトラブルを引き起こしかねない。
では、電源ユニットの基本事項を確認していこう。
電源ユニットの規格
電源ユニットの規格は、ケースおよびマザーボードの規格であるフォームファクタに準拠していることが多い。
ATX 12V規格が主流であり、MicroATXやMini ITX対応ケースでも使用できる製品がある。EPS 12VはATX 12Vをさらに強化したもので、最近の電源ユニットは両規格に対応していることが多い。SFXはMicroATXやMini ITX用のコンパクトサイズ電源である。
ATX 12V
主流になっている電源。MicroATXやMini ITXのケースに搭載できる場合もある。
ATX 12V規格は現在主流の電源ユニット規格である。ATXフォームファクタのマザーボードやPCケースに対応している。出力容量は300-1000W程度が一般的である。
ATX 12V規格電源は標準的なATX PCであれば十分な供給能力と信頼性を備えている。消費電力の高いCPUやGPUを多数搭載する高性能機であれば、EPS 12V対応を確認することを推奨する。
EPS 12V
近年のCPUやGPUの消費電力増大に伴い、12Vラインの電流容量を高めた改良規格であるEPS 12Vが登場した。EPS 12V対応電源はCPUへの12V供給を2系統に分けており、大消費電力CPUでも安定した電力供給が可能である。最近の高機能電源ユニットはATX 12VとEPS 12Vの両規格に対応している。
SFX
寸法は約125×63.5×100mmと奥行きを約40mm短縮した以外はATXと同等の規格であり、出力電圧(12V、5V、3.3V)やコネクタ配置も共通である。ただし出力容量は小さく、一般的には300-750W程度である。
形状が立方体ながら一辺がATXの約60%のコンパクトサイズなため、小型PCケースへの実装に適している。PCの小型化ニーズに合わせ需要も伸びている。MicroATXやMini-ITX搭載のコンパクトPCを自作する際にはSFX電源の採用を強く推奨したい。
SFXにはサイズ別にSFX-LやSFX-A〜Dなどの変種がある。PCの用途や搭載予定のパーツに応じて、適切なサイズと出力を備えた製品を選択する必要がある。
小型PCを自作するのであれば、省スペースでの高い搭載性から、SFX電源の採用を強く推奨する。
FlexATX
FlexATX電源の寸法は約150×81.5×40.5mmと、ATX電源(150×86×140mm)と比較すると、幅が約10mm小さく、奥行きが約100mmコンパクト化されている。電圧出力構成(12V、5V、3.3V)はATX規格と同等であるが、出力容量は小さい。一般的な製品は250-500W程度である。
FlexATX電源のメリットは低価格化と省スペース化である反面、ラインナップの選択肢はATXほど豊富ではない。極小サイズPCを構築するのでなければ、汎用性の高いATX電源を推奨したい。ケース内の搭載スペースを計算に入れて、ATXかFlexATXかを使い分けることが肝要である。
ケースおよびマザーボードのサイズと必要な電力容量を調べた上で、これらの規格の中から適切な電源ユニットを選択していこう。搭載するパーツ構成を考慮した必要出力と、搭載可能なケースサイズの両面から電源ユニットを選ぶことになる。
高容量電源ユニット
最近のCPUは消費電力効率の向上により、単体ではそれほど多くの電力を必要としなくなった。しかしながら、高性能グラフィックスカードやTVチューナーなどを追加すると、総消費電力は容易に500Wを超える。
ATXやMicroATXケースでパソコンを構築する際は、将来的なグラフィックスカード等の追加アップグレードを考慮し、初期段階から500-700W程度の比較的高容量電源ユニットを搭載するのがおすすめだ。
余裕のある容量を確保しておけば、CPUやGPUの世代交代に伴う消費電力増加や、拡張性を活かしたパーツ追加にも柔軟に対応できる。むしろ、最初から必要以上の容量を用意しておく方が、全体コストの観点からも望ましい。
80PLUS認証
電源ユニットの交流-直流変換効率を表す指標として80PLUS認証制度がある。これは米国Eco Consulting社が運営するプログラムで、交流入力電力の80%以上を直流電力として出力できる製品が認証対象となる。
80PLUSには効率水準ごとにGOLD、PLATINUMなどのランクがあり、上位になるほど電力ロスが少なくなる。消費電力およびエコロジー面で優れているが、一般的に製造コストや市場価格も上昇する。
自作PC用電源選びの際には、80PLUS認証の有無とそのランクを確認しておこう。家庭用途であればBRONZE相当の変換効率で十分だが、長時間稼働するサーバー用途ならSILVER以上がおすすめだ。許容コストと電力効率を考慮していこう。
80PLUS認証の種類
80 PLUS認証の種類と負荷率50%および100%の変換効率を示す。
80 PLUS認証 | 負荷率50%の変換効率 | 負荷率100%の変換効率 |
---|---|---|
無印 | 80 | 80 |
ブロンズ | 85 | 82 |
シルバー | 88 | 85 |
ゴールド | 90 | 87 |
プラチナ | 92 | 89 |
チタン | 94 | 90 |
電源アクセサリ
電源ユニットには、マザーボードやストレージ等の内部デバイスへ電力を供給するための電源ケーブルが付属している。しかし、ケース内のレイアウトや搭載する機器の接続本数によっては、標準添付の電源ケーブルだけでは対応しきれない場合がある。
このため、MOLEXからSATAへの変換アダプタや、複数のSATA電源コネクタを1本にまとめるアダプタケーブルなど、規格変換用の電源アクセサリを予備で用意しておくといい。自作PC組み立ての作業性やクリーンなケーブル配線を助け、トラブル回避にもつながる便利アイテムといえる。
様々な規格変換アダプタを揃えておけば、購入した電源ユニットのケーブル長が足りなくても多くの問題を回避できて重宝する。
高消費電力なGPUを搭載したシステムを構築する際、追加のストレージ装置を増設する際などに大いに効果を発揮するアイテムとなる。自作PC組み立てに欠かせないアクセサリなので準備しておこう。
まとめ
自作時には効率のよい電源ユニットを選び、パソコン全体の安定稼働を確保することが重要だ。必要な総出力電力に見合った適正容量を選び、80PLUS認証を取得した高効率モデルを選び、冷却用ファンからの騒音も考慮した上で、できるだけ静音性の高いモデルを選択していこう。